光学活性ビニルヨードニウム塩を合成し、その反応生成物の立体科学純度から第一級ビニルカチオン中間体の関与を見積もった。第一級ビニルカチオン中間体を経由すると生成物の立体化学純度が低下するように、分子不斉を利用した基質設計を行った。アルコール中でのヨードニウム塩の加溶媒分解反応では、生成物の立体化学純度は低下せず、第一級ビニルカチオン中間体の関与は観測できなかった。クロロホルム中、ヨードニウム塩とスルホナート塩との反応では、ビニルヨードニウムが転位した後、スルホナートが置換した生成物が得られ、その立体化学純度は出発物質のヨードニウム塩の立体化学純度よりも大きく低下していることを見出した。同位体標識実験、競争実験、中間体捕捉実験の結果、生成物のラセミ化は、第一級ビニルカチオン中間体の関与によるものではなく、シクロヘプチン中間体を経由する反応によって引き起こされていることがわかった。 第一級ビニルカチオンが発生しやすい条件にすると、β-アルキル基が求核的に関与した立体特異的な転位反応が優先する。ヨードニオ基の遊離には求核的な関与が必要であり、第一級ビニルカチオンの発生には至らないと考えられる。そこでヨードニウム塩を光励起し、第一級ビニルカチオン発生の検討を行った。生成物のラセミ化が進行していることを見出したが、現在それが第一級ビニルカチオン中間体の関与によるものか否かを詳細に検討している。
|