研究概要 |
多くの細胞内情報伝達過程は十万個以上の細胞をすりつぶして破壊分析されているため,生きた細胞に対する新しい分析手法として,時間的・空間的分解能の優れた蛍光プローブ分子の開発が興味深い.本研究では,細胞内情報伝達を担う主要な生体脂質分子(脂質セカンドメッセンジャー)であるジアシルグリセロール(DAG),およびホスファチジルイノシトール-3, 4, 5-三リン酸(PIP3)の蛍光プローブ分子(DAG-lipcusおよびPIP3-lipcus)を開発し,ペプチドホルモン刺激により産生されたこれら脂質セカンドメッセンジャーの細胞内での挙動について,蛍光顕微鏡下の生きた単一細胞で定量的解析を行った. DAGおよびPIP3をそれぞれ選択的に分子認識するリセプター(LBD : Lipid Binding Domain)として,それぞれプロテインキナーゼCのDAG結合ドメイン(Cys1ドメイン)とGrp1のPIP3結合ドメイン(PHドメイン)を用いた.その分子認識を蛍光シグナル変化として検出するために,緑色蛍光蛋白質(GFP)の異色変異体間の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に基づくアプローチを行った.GFP変異体であるシアン色蛍光蛋白質(CFP)と黄色蛍光蛋白質(YFP)はFRETの優れたドナーおよびアクセプターであり,CFPとYFP間の相対的距離および配向の変化がFRET効率を変化させる.CFP-LBD-YFP融合蛋白質(lipcus)を不飽和脂質(ファルネシル基)修飾配列(FS)を介して細胞膜に結合させた.このlipcusには非常にフレキシブルなリンカー配列(Gly-Gly)が二カ所のみ含まれている.ペプチドホルモン刺激により産生されたDAG(PIP3)がDAG-lipcus(PIP3-lipcus)のLBDに結合すると,分子内のフレキシビリティーが大幅に減少し,CFPとYFP間の相対的距離および配向の固定化によりそのFRET効率が増加することを示した.本法はDAG, PIP3のみならず,細胞膜表面の生体分子一般に適用可能な方法論である.
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