分子シャペロンやATP依存性プロテアーゼは、進化の過程で保存された蛋白質である。大腸菌熱ショック転写因子σ^<32>は、細胞内において半減期約1分で素早く分解される。この素早い分解には、複数の分子シャペロンやATP依存性プロテアーゼが必要とされる。本研究の目的は、安定変異型σ^<32>の分離、変異部位の同定、in vitro解析を通して、分子シャペロンやATP依存性プロテアーゼが認識する基質蛋白質上の構造を明らかにすることである。 細胞内で安定化する変異型σ^<32>を、レポーター遺伝子を用いて転写活性を指標に分離を試みた。一次スクリーニングとして、変異を導入したrpoH遺伝子(σ^<32>をコードする遺伝子)を持つプラスミドにより形質転換した大腸菌の中からレポーター活性が上昇するものを選択し、現在までに73株得た。二次スクリーニングは抗σ^<32>血清を用いてイムノブロッティングを行い、期待通り細胞内のσ^<32>量が増加しているものを少なくとも26株得た。そのうちの9株において、内在性の熱ショック蛋白質の増加を確認した。三次スクリーニングとして、放射性メチオニンを用いたパルス-チェイス実験によりσ^<32>の安定性を調べる予定だったが、合成培地で形質転換体の増殖が悪いためパルス-チェイス実験を行えていない。代わりに、L培地で増殖中の大腸菌にクロラムフェニコールを添加して蛋白質合成を停止させ、その後のσ^<32>の減少をイムノブロッティングにより調べた。9株中少なくとも4株でσ^<32>の安定化が観察された。しかしながら、増殖速度がコントロール株より遅いため二次的な影響をみている可能性があり、放射性メチオニンを用いたパルス実験によりσ^<32>の合成速度の変化を調べなければならない。現在、合成培地でこれら形質転換体が増殖できる条件を検討中である。安定化が観察された4株において、rpoH遺伝子の配列を調べ、変異部位を同定した。
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