本研究の成果として、以下の2つを各々論文として発表した。 1)Msn2は温度や塩などのストレスに応答して核に移行し、ストレス応答因子の遺伝子の転写を促進する転写因子である。GSK-3はMsn2を介して細胞のストレス応答に働く。 2)gsk-3遺伝子変異株の温度感受性を抑圧する変異から得たRog3は、ユビキチンライゲースRsp5と相互作用し、薬剤耐性に働く。 さらに、新たな知見として、GSK-3がTOR経路と関わることを発見した。TORは、免疫抑制剤ラパマイシンのターゲットとして知られており、自然状態においては細胞外の栄養条件に応答する経路に働く。最近、TORがMsn2の局在をも制御することが報告された。そこで、GSK-3とTOR経路との関わりについて調べたところ、TOR経路の下流に存在する複数の因子(Npr1およびApg13)のリン酸化状態がGSK-3によって制御されることが明らかとなった。これにより、GSK-3シグナル伝達系とTOR経路とのクロストークが示唆された。 以上の結果から、本研究により、GSK-3シグナル伝達系に関わる因子としてMsn2、Rsp5、TOR経路など多種類の因子を同定することに成功した。さらに、これらの因子と機能的に相互作用することによって、GSK-3が堪や温度、薬剤、栄養源など、様々な環境要因に対して細胞が応答する際に重要な役割を果たしていることを明らかにした。
|