トラフショウジョウバエの重複アミラーゼ遺伝子発現を制御するシスエレメントを同定するためにキイロショウジョウバエでP因子仲介形質転換法用いて、アミラーゼ遺伝子のデリーションミュータントをもつトランスジェニックフライを作製した。トラフショウジョウバエの重複アミラーゼ遺伝子のひとつであるAmyl遺伝子の5'上流領域の長さが異なるデリーションミュータント系統について、アミラーゼ酵素活性を指標として遺伝子発現のパターンを調べた。アミラーゼの基質であるスターチ培地と分解産物であるグルコース培地それぞれにおける幼虫、成虫のアミラーゼ酵素活性の解析から、1)トラフショウジョウバエとキイロショウジョウバエのアミラーゼ遺伝子の発現パターンには明らかな相違があるが、5'上流約1.7kbを含むAmyl遺伝子はキイロショウジョウバエにおいてトラフショウジョウバエと同様の発現パターンを示しうる。 2)トラフショウジョウバエの発現パターンの再現には、少なくとも5'上流約440bpは必要である。 3)5'上流約440bpから310bpまでの約130bpの領域と約310bpから140bpまでの約170bpの領域それぞれにトラフショウジョウバエの発現パターンを特徴づけるシスエレメントが存在する。 4)Amyl遺伝子の発現には少なくとも5'上流約140bpは必要である。 ということが示唆された。 以上より、キイロショウジョウバエはトラフショウジョウバエと同じ、または類似のトランスエレメントを持っており潜在的にはトラフショウジョウバエと同様の発現パターンを示しうるが、シスエレメントが違うため2種間で発現パターンに相違ができたと考えられる。つまり、トランスエレメントに比べるとシスエレメントは容易に変化しうるので、急速な環境への応答が必要な適応進化においてはシスエレメントの変化は極めて重要であることが示唆された。
|