概日時計は環境の光変化に応じて運行速度すなわち概日速度を調節する。生物はこの光応答性によって様々な生物活性の発現タイミングを最適にしている。本研究では、概日速度調節遺伝子pexの発現調節因子を分子遺伝学的手法で探索してDNA結合型転写因子CmpRを同定した。そのためには、まずpex発現の生物発光レポーター株を作製した。そしてトランスポゾンをゲノムの不特定部位に挿入した約3万コロニーから、野生型より明るく輝く30個のコロニーを分離した。それらから、さらにノーザン法でpex mRNAレベルを調べ野生型よりも蓄積しているpex発現変異体を4つに絞り込んだ。そのうちの一つについてプラスミドレスキューを行い、cmpR遺伝子にトランスポゾンが挿入していることがわかった。cmpRから発現するCmpRタンパクはDNA結合型転写因子で光合成のカルビン回路に必要な一連の遺伝子群の転写を調節する。このcmpR破壊株ではpex発現レベルが上がっているため、概日速度も下がっている。しかし、cmpR DNA断片を形質転換でこの破壊株ゲノムに組み込むとpex発現レベルと概日速度の両方が野生型に戻った。したがって、cmpRがpex発現の抑制遺伝子であり、概日速度の調節因子であることを明らかにした。またcmpRとpex遺伝子の二重遺伝子破壊体をつくり、そのリズムを調べたところ、リズムの反応性は野生型に近付いた。このことからcmpRは我々の期待したとおり、pexを介して概日速度を調節していることが遺伝学的にも示された。CmpRタンパクはシアノバクテリアの概日時計に関係する因子としては初めてのDNA結合型転写因子である点で興味深いだけでなく、光合成の影響を受けていることが考えられる。
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