多くの草本植物では、上層を占める個体は茎直径が様々であるのにもかかわらず高さが比較的等しい。本研究者の一年生草本シロザを用いた実験によって、これは、周囲個体の高さにそろうように高さ成長が調節された結果であることが明らかになっている。そして、周囲より低い個体が茎の太さ成長を抑え伸長成長を促進して周囲個体に追いつくことについては、光獲得の促進という生態学的意義が、一方、周囲より高い個体が伸長成長を低下させ茎の太さ成長を増大させることについては、力学的安定性の確保という生態学的意義が示唆されている。 本年度は、このような「背ぞろい」を引き起こすメカニズムの解明を目指した。植物の茎の成長の調節には、光受容色素であるフィトクロムを介したものと、植物ホルモンであるエチレンを介したものが知られている。ポットを並べることで群落をつくり、一部の個体を上げるあるいは下げることによって個体の相対的な高さを操作すると、周囲の個体にそろうように茎の成長が調節されて背ぞろいが生じるが、もし、背ぞろいにフィトクロムが関与しているならば、そのようなポット群落実験で周囲個体を光の波長組成を変えないような造花にすれば、背ぞろいは生じないはずである(フィトクロムは、赤色光/近赤外光の比率を感知する。群落内では、葉緑素が赤色光を選択的に吸収するため、赤色光/近赤外光比が低下する)。一方、もし、背ぞろいにエチレンが関与しているのならば、上記のポット群落実験で、茎が風で揺れないように棒に固定すれば、背ぞろいは生じないはずである(エチレンは風による物理的刺激によって生成される)。そのような実験を行った結果、棒に固定した場合は、どの個体も若干伸長が促進気味ではあったが背ぞろいが生じた。一方、周囲個体を造花にした群落では背ぞろいは生じなかった。これらのことから、背ぞろいにはフィトクロムが関与していることが示唆された。
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