草本植物シロザの群落上層を占める個体は、周囲個体よりも少しでも高いと伸長速度を低下させ、少しでも低いと伸長速度を大きくし、結果的に周囲個体と同じような高さになってしまう。わざわざ伸長速度を低下させる個体は、高い茎を作るかわりに太い茎を作っている。上層個体は、光を巡る競争よりむしろ、個体の力学的安定を重視しているようにみえる。 植物個体の力学的問題は、不明なことが多い。力学的失敗の種類には、自身を真直ぐ支えきれない(挫屈)、風などの負荷によって倒伏する、あるいは折れる、などが挙げられるが、植物はこれらのうちどの危険性にまず備えなければいけないかも明らかでない。そこで本年度は、まず、これらの問題を整理することにした。材料力学的理論に基づいて計算した結果、自重を支えるのに最低限必要な茎の太さを個体がもつものとすると、葉重と茎重の比率を固定した場合、個体の高さが高くなるほど耐えられる風速は大きくなることがわかった。しかし、高さが10-20mの個体でも、破壊が生じない風速は10-15m/sと台風時の最大瞬間風速よりもおおむね低く、植物の茎は、原則的に、風による折れに対して備えなくてはならないことが示唆された。しかし、草本など高さが低い場合は、挫屈しない茎の太さが比較的細いため、風によって変型してなびくことができ、このことによって風の力を逃がせることが示唆された。このため、草本では、風に対して折れないように茎を太くするよりも、なびいたときにお互い絡まりあって倒伏しないよう、ある程度の挫屈安全率をもつように茎を作るだけでいいことが示唆された。 ユトレヒト大学のN.P.R.Anten博士の助力によって行われた、タバコ(草本)を用いた風洞実験では、風速15m/sでも、風になびくことによって茎は折れないことが明らかになった。その強風では、葉がちぎれ飛び、茎よりも葉の損害が深刻だった。
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