昆虫における表現型多型のメカニズムと進化

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13740435
• 研究種目: 奨励研究(A)
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 三浦 徹 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助手 (00332594)
• キーワード: 表現型多型 / 社会性昆虫 / カースト分化 / シロアリ / アブラムシ / 遺伝子発現 / 幼若ホルモン / 進化生態学

研究概要

本研究課題では、環境依存的に形質を変える表現型多型という性質を顕著に示すシロアリとアブラムシを材料に、カースト分化などのメカニズムを探ることを目的として研究を進めている。
これまで、オオシロアリHodotermopsis japonicaで兵隊特異的発現遺伝子をDifferential Display法により検出し、大顎で発現するSOL1遺伝子を同定している。本年度はこの遺伝子のタンパク産物の局在を調べた結果、このタンパク自体は体外へ分泌されるのではなく、フェロモンの産生または輸送に関わる可能性が示唆された。オオシロアリのカースト分化時の組織観察では、本種は特異的な有翅虫産生方法をとることも明らかになった。Differential Displayによる新規遺伝子の解析も進み、更なる兵隊特異的遺伝子の候補がいくつか得られている。また、ネバダオオシロアリZootermopsis nevadensisを用いた幼若ホルモン類似体による兵隊誘導実験および組織形態学的観察の結果、兵隊形質の発現と有翅虫(繁殖虫)の形質発現にはトレードオフの関係があることが認められた。これら研究結果は現在国際誌に投稿準備中である。前年までの研究成果はいくつかの学会誌に発表し、これまでのシロアリのカースト分化研究をまとめた総説的な論文をInsectes Sociaux誌に発表した。また、日本昆虫学会、日本生態学会で研究成果を報告した。
アブラムシにおいては、胎生無性生殖虫の卵巣小管を解剖し、いくつかの形態形成因子の抗体を用いて免疫染色を行い、単為生殖胚の発生を詳細に観察した。この結果は論文にまとめ、現在投稿中である。また、国際アブラムシシンポジウムにて研究成果を発表した。更に、兵隊カーストを産生するアブラムシにおいても同様の胚発生の研究を開始し、結果が得られ始めている。

研究成果

• [文献書誌] Machida M, Kitade O, Miura T, Matsumoto T: "Nitrogen recycling through proctodeal prophylaxis in the Japanese damp-wood termite Hodotermopsis, japonica(Isopiera : Termopsidae)"Insectes Sociaux. 48. 52-56 (2001)
• [文献書誌] Hojo M, Miura T, Maekawa K, Iwata R, Yamane A: "Termitaria species(Termitariales, Deuteromycetes)found on Japanese termite(Isopiera)"Sociobiology. 38. 327-338 (2001)
• [文献書誌] Miura T: "Morphogenesis and gene expression in the soldier-caste differentiation of termites"Insectes Sociaux. 48. 216-223 (2001)
• [文献書誌] Koshikawa S, Matsumoto T, Miura T: "Regressive molt in the Japanese damp-wood termite Hodotermopsis japonica(Isopiera : Termopsidae)"Sociobiology. 38. 495-500 (2001)
• [文献書誌] Machida M, Miura T, Kitade O, Matsumoto T: "Sexual polyethism of founding reproductives in incipient colonies of the Japanese damp-wood termite Hodotermopsis japonica"Sociobiology. 38. 501-512 (2001)
• [文献書誌] 松本忠夫, 三浦徹: "社会性昆虫としてのシロアリの特徴-その繁殖戦略とカースト分化"化学と生物. 39. 482-489 (2001)