1.過去に得られたデータを整理・解析して論文をまとめ、学会誌に投稿した。 2.本年は、高山植物の花粉の発芽様式における温度依存性を明らかにすることに目的をしぼり、チングルマとチョウノスケソウを材料に富山県立山山地で調査研究を行った。主にチングルマについて、以下に示す各項目について調査を行い次のような結果を得た。 (1)自然状態で生じている温度勾配、すなわち標高差を利用して、標高の異なる三つの個体群から花を採取し、15度、20度、25度の3つの温度条件で花粉を24時間培養した。その後、染色固定し、光学顕微鏡とデジタルカメラを用いて、花粉の発芽率を計測し、花粉管の伸長量を測定した。その結果、花粉の発芽率に関してはいずれの個体群でも20度で最も高い値を示し、個体群間での統計的な有意差はなかった。花粉管の伸長量に関しては、個体群間で異なっており、特に最も標高の低い環境に生育していた個体群の花粉は、その他の標高の高い個体群に比べて、20度で顕著に花粉管が伸長しており、この温度域に特化していた。 (2)最も標高の高い調査地では、オープントップチャンバーを用いて3年間温室効果を与えた個体群(以下OTC個体群)がある。このOTC個体群から採取した花粉と同生育地の自然個体群から採取した花粉を比較したところ、花粉の発芽率はOTC個体群の方がやや高かった。また、花粉管の伸長量では、OTC個体群は自然個体群に比較して20度で顕著に伸長量が高くなっており、(1)の結果で見られた最も標高の低い個体群と花粉管伸長パターンの温度依存性が似ていた。標高の高い個体群では、花粉の発芽様式が温暖化によって高温適応型にシフトし、活性が高くなることが分かった。 (3)チングルマとチョウノスケソウでは、花粉発芽率が最も高い温度が異なり、チョウノスケソウは最も低い温度(15度)での発芽率が高かった。これらの結果は、同地域に生育している植物間で温度の上昇に対する応答が異なる可能性を示唆し、また周北極植物はより低温環境に適応しているものと考えられた。
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