日本の干潟に普遍的に生息するコメツキガニは、シギ・チドリ類のような渡り鳥を終宿主とする二生類吸虫の第二中間宿主である(第中間宿主はウミニナ科の貝類)。本研究では、吸虫の感染がカニの摂食行動を終宿主への移動が可能なときのみ促進しているかどうかについて、行動観察と代謝実験により調査した。その結果、吸虫はカニの摂食行動と代謝(酸素消費量と体重)には影響を与えていなかった。即ち、摂食行動の促進により対捕食者行動が疎かになるというトレードオフは認められなかった。また、ビデオカメラを用いて、捕食者に対するカニの反応速度を調べる実験も行ったが、その結果は現在解析中である。したがって、現時点ではまだ、吸虫の感染によりカニの行動が変化しているかどうかを結論づけることはできない。 吸虫の第一中間宿主がどの種であるかを特定するために、複数種の巻貝において吸虫(セルカリア)の感染状況を調査したところ、ホソウミニナが最も有力な候補であり、それ以外の種が宿主になっている可能性は低いと考えられた。そこでホソウミニナを使って感染実験を試みたが、材料の確保が十分に行えなかったことなどのため、今年度は成功しなかった。来年度再挑戦する。 コメツキガニにおける吸虫感染の有無と、他の宿主の有無との関係を知るために、数多くの干潟において調査を行った。東京湾千葉県側の7ヵ所、山口県内の主に瀬戸内側の11ヵ所、合計18ヵ所で採集を行い、現時点ではそのうち14ヵ所のサンプル処理が終了している。既知の結果と合わせて17ヵ所について解析を行ったところ、全ての宿主が生息する場所ではカニに吸虫が感染しており、そうでない場所ではカニに吸虫が感染していないという、統計上有意な傾向が得られた。したがって、吸虫の存在がその干潟における種数の豊富さを反映していると言えそうである。
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