研究概要 |
京都市左京区岩倉川源流部と香川県木田郡二木町の琴電農学部前駅南側にある水田で野外調査を行った.京都では山間地の31カ所の田んぼを,また香川では住宅地の30カ所の田んぼを調査ステーションとして選び,注排水のスケジュールやホウネンエビの発生消長,採集された成体のサイズや蔵卵数を調査した. 京都の調査地ではステーション間でホウネンエビの成体サイズに大きな変異が見られ,それが場所ごとの水の持続期間の長短に対応していることが観察された.水の存在期間が長い田んぼでは,ホウネンエビは小型の成体に達した後産卵を続けながらさらに大型に成長する「長期繁殖型」が,水の存在期間が短い田んぼでは大型にならずに小型成体のまま短時間で繁殖を終了・死亡する「短期繁殖型」が発生した.もし小型成体の時期において成長と繁殖の間にトレードオフが存在するならば,長期繁殖型個体が小型成体であった時期には同サイズの短期繁殖型個体よりも卵生産量が少ないと予測される.体長と蔵卵数の関係を調べたところこの予測を支持する結果が得られた.ホウネンエビの表現型変異はそれぞれの田んぼで局所的に異なる自然選択を受けて適応的に進化したものと思われる. 一方香川の調査地では田んぼの水入れ時期は場所ごとに大きく異なったが,それに対応するような一貫した表現型変異を見出すことはできなかった.ステーション間よりもステーション内での変異が大きく,しかし全体としてみると京都の調査地でいう「短期繁殖型」の範疇に入るものと思われた.このことは降雨の少ない香川では用水路が水門を閉められてため池のような状態となり,各ステーションから排水された水が混じり合ってから再びポンプで吸い上げられて戻されるため,ステーション間の遺伝子流動が大きく,また京都よりも不確実性の高い環境であるために特定の遺伝子型が局所的適応を果たすごとが妨げられているからだと考えられる.
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