日本産シロイヌナズナ属の野生種の野外集団について、開花反応における表現型可塑性の変異を定量することが目的である。平成14年度には、シロイヌナズナ属タチスズシロソウとミヤマハタザオの栽培実験をおこなった。タチスズシロソウは、海岸や湖岸の砂地に生育する越年草である。また近縁種のミヤマハタザオは山中に生育する多年草である。 タチスズシロソウ4集団(琵琶湖3集団、伊勢湾1集団)とミヤマハタザオ1集団(富士山須走口五合目)から個体毎に採取した集団あたり7系統の種子を一定条件で発芽・栽培後、低温期間を5段階(0、2、4、8週)に分けて処理した。その後長日条件に移して開花までの日数、開花後の各形質を測定した。 その結果、開花個体では各集団とも低温処理により開花が早まつたが、タチスズシロソウの琵琶湖北側2集団と琵琶湖南側と伊勢湾岸集団とで処理後120日経過しても開花に至らない個体の割合が異なる。これらの集団では開花反応における低温(バーナリゼーション)要求性に遺伝的変異を内包しており、また集団間で遺伝的分化が生じている。南方に位置する集団ほど開花反応における低温要求性が強い。ミヤマハタザオでは低温処理の無い条件下で他集団と比べ開花が早いことが分かった。 各野外集団から得られた反応性の異なる系統を選んで、自殖系統の作成を開始した。これは、自殖系統の掛け合わせ実験によって、開花反応における低温要求性の遺伝的解析をおこなうためである。平成14年度において自殖系統の第2代目(野外個体から数えて3世代目)からの種子採取が完了した。第6代より得られた種子で掛け合わせ実験をおこなう。
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