研究概要 |
ヒタキ科ウグイス亜科の3種、オオヨシキリ、ウチヤマセンニュウ、イイジマムシクイについて、繁殖個体群のサンプルを用いて分子生物学的手法の検討をおこなった。 ミトコンドリアDNA調節領域では、Tarr(1995)のプライマーが、イイジマムシクイでは利用できないが、オオヨシキリ、ウチヤマセンニュウでは利用できることがわかった。オオヨシキリは韓国の個体群と日本の個体群を分析し、5%の個体の例外を除いて、両個体群を区別することができた。孤島に離散分布するウチヤマセンニュウでは、九州南部の島々、九州北部の島々、伊豆諸島のサンプルを計15個体調べたところ、九州南部と北部は一致し、伊豆諸島のみ0.1〜0.4%の違いが見られた。ただ、伊豆諸島の5個体のうち、1個体は九州地方と同じハプロタイプを示したので、調節領域の塩基配列での地域差は頻度の差と解する必要がある。 マイクロサテライトDNAの遺伝子頻度を求める分析では、6つのニシセンダイムシクイのプライマー(Bensch et al.1997)を2つの異なる種で試した。異なる属であるウチヤマセンニュウでは利用できないことがわかったが、同属のイイジマムシクイについては、POCC5,6,8の3つの遺伝子座で多型遺伝子が見つかった。オオヨシキリでは同種から単離された5つの遺伝子座で多型が検出された。大阪と韓国の個体群に遺伝子頻度の明確な違いがあった。Z染色体上の遺伝子座よりも常染色体上の遺伝子座の方が違いが大きく、オオヨシキリでは常染色体上の遺伝子座が地域差を検出するのにより適していることがわかった。 以上のように、地域差を検出する分析手法はいくつかの種で確立しつつある。渡りルートの解明に向けた分子生物学的アプローチとして、今後、多型のより多い遺伝子座を探すなど、手法を改良しながら、地域個体群のサンプル収集と地域差の検出もおこなう。
|