本研究では植物細胞の生死の制御機構を分子レベルで解析する事を目的として研究を行っている。これまでの結果から、動物由来の細胞死促進因子(Bax)と植物由来の細胞死抑制因子(Bax Inhibitor-1)が、植物細胞内で機能的にクロストークすることを明らかにした。すなわち、動物の細胞死促進遺伝子であるBaxをシロイヌナズナに導入し、薬剤添加により発現誘導する系を開発した。この結果、Baxは植物にもアポトーシスと類似の細胞死を引き起こす事を明らかにした。また、すでに我々のグループが単離していた植物由来のBax Inhibitor-1(AtBI-1)遺伝子を共発現すると、細胞死が抑制された。これらの結果は、植物にもBaxの下流で作用し、細胞死の制御を行うカスケードが存在する可能性を示唆している。 さらにAtBI-1タンパク質の機能を詳細に解明するため、酵母においてBax誘導性細胞死を抑制するために必要な機能ドメインの検索を行った。その結果、サイトゾル側に存在していると考えられるC末端領域14aaを欠失させたタンパク質(ΔC-AtBI)では、酵母における細胞死抑制活性が消失した。さらに、タバコ培養細胞BY-2株にAtBI-GFP及びΔC-AtBI-GFPを35Sプロモーターの下流に連結して導入した結果、AtBI-GFPを過剰発現する株はH_2O_2やサリチル酸(SA)が引き起こす細胞死を抑制したが、ΔC-AtBI-GFPを発現する株は、その活性を消失していた。コンピューターによるサーチの結果、AtBI-1タンパク質のC末端領域はcoiled-coil構造をとると予想されており、何らかの未知の因子との相互作用を介して機能している可能性がある。今後、アミノ酸置換による変異導入タンパク質の作成や、抗体を用いた生化学的手法により細胞死抑制の機構について解析を進める予定である。
|