2 品種の菖蒲[(A)愛知の輝き、(B)桜]のうち、菖蒲(A)の光合成速度は菖蒲(B)の40%に過ぎず、菖蒲(A)での光合成への光エネルギー利用効率は小さい。これは、つねに菖蒲(A)の生葉が光エネルギー過剰状態にさらされていることを示し、酸化傷害をこうむる危険性をもつことを示している。本年度、両菖蒲生葉からチラコイド膜を単離し、チラコイド膜レベルでの光エネルギー利用効率を両菖蒲間で比較した。メチルビオローゲンを電子受容体としたときの酸素吸収速度により光合成電子伝達反応速度[V(O_2)]を測定し、この値をクロロフィル蛍光解析で評価する光化学系II(PSII)の電子伝達速度のパラメーター、量子収率[Φ(PSII)]と相関づけた。その結果、菖蒲(B)では、Φ(PSII)とV(O_2)の間で正の線形相関が得られ、PSIIで光生成した電子はすべて光化学系I(PSI)でO_2へ流れていることが明らかになった。一方、菖蒲(A)のΦ(PSII)は菖蒲(B)の値を上回り、PSII内部で電子が循環的に流れていることが示唆された。このことから以下のことが明らかになった。つまり、光合成への光エネルギー利用効率が小さい菖蒲(A)では、光合成に利用されない光エネルギーは、PSII内部での循環的電子伝達反応を伴う連続した酸化還元反応により熱として安全に処理されていることを示唆する。 また、生葉レベルでの解析では、大気CO_2/O_2分圧下、菖蒲(A)において光合成にとって必要以上の電子が流れていることを明らかにした。一方、菖蒲(B)では見出されていない。このことは、生葉でもPSII内部での過剰な光エネルギー処理系が機能していることを示唆する。現在、更なる解析を進行させている。
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