平成13年度、光合成速度が小さく、過剰な光エネルギーに常にさらされている菖蒲の生葉において、チラコイド膜光化学系II(PSII)内循環的電子伝達反応(CEF-PSII)が機能し、過剰な光エネルギーの安全な散逸をおこなっていることを示唆する結果を、菖蒲チラコイド膜を用いて得た。本年度は、以下に述べるように、CEF-PSIIが、葉緑体で実際に機能していることおよび過剰な光エネルギーの散逸に機能していることをチラコイド膜を用いて明らかにした。モデル葉緑体として、ホウレンソウ生葉から葉緑体を単離した。光合成電子伝達反応速度を酸素吸収速度[V(O_2)]、PSIIの電子伝達速度をクロロフィル蛍光解析により得られるPSIIの量子収率[Φ(PSII)]により評価した。CEF-PSIIの活性発現には、チラコイド膜のΔpH形成を要する。光照射下の葉緑体に、プロトノフォアを添加し、ΔpHを消失させると、V(O_2)の増大が認められるが、Φ(PSII)は減少した。これは、葉緑体でも、光合成電子伝達反応に関係しない電子が、PSII内で流れているつまりCEF-PSIIが機能していることを示す。CEF-PSIIの活性は、光強度の増大とともに増加し、過剰な光エネルギー散逸能をもつthe water-water cycleの活性に匹敵した(平成14年論文報告)。次に、CEF-PSIIの生理機能を明らかにするために、電子受容体濃度およびΔpHを調節することによりV(O_2)の値およびCEF-PSII活性を変化させ、チラコイド膜を光照射した。CEF-PSIIが機能しない条件下では、チラコイド膜の光合成電子伝達活性は速やかに失われ、これはPSIIの光失活によるものであった。つまり、CEF-PSIIが、実際に過剰な光エネルギーの散逸に機能することが明らかになった(平成15年論文報告in press)。
|