研究概要 |
植物細胞壁の不可逆的伸展は細胞の伸長成長や植物体の分化・形態形成の基盤をなす重要な過程である。Lockhartの成長方程式によれば,細胞壁の伸展は、臨界降伏圧(y)や細胞壁の展性(φ)という細胞壁の力学的性質によって規定される。本研究は,これらのパラメータのうちyの調節機構、ひいては細胞壁の伸展の分子メカニズムを解明することを目的としている.その糸口として近年ミトリササゲの伸長成長域から精製された,yを調節するタンパク質yieldin(YLD)の黄化ミトリササゲ芽生えにおける組織・細胞内局在性を抗YLD抗体を用いて解析した。 その結果,YLDは地上部(子葉,上胚軸および下胚軸)には存在するが根には存在しないことが明らかになった。上胚軸におけるYLDシグナルの強度は頂部の伸長直前の組織(フック)でもっとも強く,既伸長域に向かうにつれ減少した。さらに異なる発芽段階にある胚軸を用いたティッシュプリントイムノブロッティング解析により,子葉付着点直下にある頂部のYLDが豊富な領域(フックと伸長成長域)は胚軸の伸長に伴って下部に移動することが観察された。これらの結果は細胞中のYLD量が厳密に調節されていることを示唆し,その量と細胞の伸長成長能が相関関係にあることを強く示唆する。また蛍光抗体法を用いた顕微鏡観察によりYLDは胚軸の皮層と表皮の細胞壁に局在することが示された。軸性器官において,その表皮側細胞壁は伸長成長を律速していると考えられている。従ってこれらの結果はYLDがyを調節することにより軸の伸長成長を調節しているという我々の仮説を裏付けるものである。
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