本研究の目標は、細胞壁の酸性化によって誘導される臨界降伏圧(Y)の変化を制御しているyieldin(YLD)というタンパク質の作用機作を明らかにすることであり、それを手がかりにYの実体と細胞壁の伸展過程の分子機構に迫ろうとするものである。そのためにまずYLDの組織内局在性を解析し、さらにそのリガンドを探索することを目的とした。 平成13年度の抗YLD抗体を用いた細胞学的研究から、YLDが伸長中、または伸長直前の組織の表皮及び皮層の細胞の細胞壁に局在することが明らかになった。そこで平成14年度には、YLDリガンドの探索を細胞壁を構成する主な成分、つまり細胞壁構成多糖に絞って行った。 細胞壁多糖をペクチン分画およびヘミセルロース分画に分画し、得られた画分からYLD固定化アフィニティクロマトグラフィーを用いてYLD親和性多糖を単離した。それらの糖量を測定したのち、(1)酸加水分解産物を薄層クロマトグラフィーを用いて分析するか、または(ii)4-アミノ安息香酸エチルエステルを用いて標識化した各単糖を高速液体クロマトグラフィーを用いて分析することにより、そのYLD親和性多糖を構成する単糖の分離・同定を試みた。その結果、YLDに親和性のある多糖はペクチン分画に多く含まれ、またアラビノースとガラクトースおよびグルコース残基がYLD親和性多糖由来の単糖群中に確認された.さらに(ii)の方法でしか確認されていないが、YLD親和性多糖にはN-アセチルグルコサミン残基が含まれている可能性が示唆された。 以上のことから、YLDは細胞壁中に存在するなんらかの構造タンパク質、例えばアラビノガラクタンタンパク質(AGPs)の糖鎖と相互作用している可能性があると思われる。AGPsは多様な植物・器官で発現し、細胞の成長分化になんらかの重要な役割を果たしていると考えられているが、その詳細はまだ明らかにされていない。本研究を通じ、yieldinというタンパク質の作用機作だけでなくAGPsの役割の本質が明らかになるかも知れない。
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