スフィンゴ脂質長鎖塩基(以下、長鎖塩基と略ず)1に化学構造上類似したフモニシンB1(FB1)は、植物のブログラム細胞死(以下、r細胞死と略す)を誘導する。このようなFB1は、細胞内においてスフィンゴ脂質のde novo合成を阻害し、細胞内に遊離の長鎖塩基を蓄積させる。このことから、近年、細胞死の誘因となるシグナルの一つが、細胞内の遊離長鎖塩基のレペルの増加にあるといわれている。しかし、植物において細胞内の長鎖塩基のレベルと、細胞死の因果関係を直接的に証明した報告はない。本研究の目的は、細胞死におよぼすセリンパルミトイルトランスフェラーゼ遺伝子(AtLCB1、AtLCB2)およびスフインゴシンキナーゼ遺伝子(AtLCBK1)の遺伝子発現の影響をシロイヌナズナについて調べ、長鎖塩基の細胞内レベルと細胞死の因果関係を解析することである。 本年度に得られたおもな研究成果の概要は以下の通りである。 (1)かずさDNA研究所との共同研究で、AtLCB1に関するシロイヌナズナT-DNAタグラインを得た。現在、このタグラインの形態学的特徴の解析、さらにFB1に対する感受性試験や細胞内の遊離長鎖塩基レベルの解析等、詳細な解析を進めており、平成15年度中にはAtLCB1に関する一連の研究成果を発表する予定である。 (2)平成13年度において、植物体内に微量に存在する長鎖塩基を定量する方法として、蛍光分光検出器を使用した高速液体クロマトグラフィーによる微量定量法の開発した。本年度は、植物細胞内の長鎖塩基含量の変動を確認するモデル実験として、上記の微量定量法を用いて耐塩性植物シュンギク(Chrysanthemum coronarium)の長鎖塩基含量に及ぼすNaClの影響を調べた。その結果、NaCl濃度の増加に応じてスフィンゴシン(トランス-4-スフィンゲニン)の増加が見られた。このように、植物において遊離長鎖塩基の変動が定量的に観察されたことは初めてである。本研究成果の一部は、平成14年5月に開催された15th Intemational Symposium of Plant Lipidsにおいて発表した。
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