植物ホルモンABAは、種子の成熟の成熟過程においてABAの量が増加し、種子の乾燥耐性獲得(休眠)に関与していることがこれまでの生理学的な研究により示されている。さらに、近年の分子遺伝学的研究よりABAの生合成系のネオザンチン開列酵素(NCED)をコードする遺伝子が単離されており、その酵素はABAの量を調節している律速酵素であることが示されている。そこで我々は、ABA生合成の律速段階で働くNCED遺伝子を同定し、この遺伝子を詳細に解析する事を試みた。 まず、アラビドプシスの全ゲノム配列から予想されるNCED遺伝子のDNA断片をPCRにより単離し種子の成熟過程で発現している遺伝子(AtNCED2)をノーザンブロットにより同定した。次に単離・同定したAtNCED2のプロモーター領域ATGコドンより上流約2kbpをPCRで単離し、その塩基配列の決定を行い、すでに決定されているゲノム配列と一致していることを確認した。このプロモーター領域と指標遺伝子GUS遺伝子の融合遺伝子AtNCED2::GUSを作製しアラビドプシスに遺伝子導入し、その植物体を用いてGUSの活性と染色部位の特定を試みた。 その結果、開花後11〜14日目ごろにGUS活性が上昇しており、ノーザンブロット解析で得られた結果と一致していることが確認された。さらに莢および種子をGUS染色したところ、種子の胚でGUSによる染色が見られた。これらの結果は、ABAは種子成熟期に上昇するという結果と一致しており、AtNCED2遺伝子がこのABAの上昇に大きく関わっていると考えられた。さらに、これまで種子のABAが何処で合成されているか全く不明だったが、今回のこの結果より種子のABAは胚で合成されている可能性が示唆された。
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