コオロギの死にまねを特徴づける運動出力の解析 1解剖学的研究 死にまね中には後肢脛節の強い屈曲維持がおこる。脛節屈筋は腿節基部側にある大きな筋肉(主屈筋)と末梢側にある小さな筋肉(補助屈筋)からなる。両者を支配する神経の逆行性染色を行い、その数とタイプをほぼ明らかにした。主屈筋の基部は2個のintermediate type、2個のslow typeの興奮性運動ニューロン、2個の抑制性運動ニューロンの支配を受け、中央部は3個のintermediate typeの興奮性運動ニューロンの支配を受け、末梢部は3個のfast type、1個のintermediate typeの興奮性運動ニューロンの支配を受ける。一方、補助屈筋は2個のintermediate type、4個のslow typeの興奮性運動ニューロン、2個の抑制性運動ニューロンの支配を受けることが明かとなった。以上より、筋肉の両端部は多数で多様なタイプの運動ニューロンの支配を受け、中央部の筋肉に比べ緻密な制御がなされていることが強く示唆される。この神経支配パターンは原始的なコオロギであるウェタに類似するが、バッタのそれとは大きく異なることがわかった。 2死にまね中の運動出力の生理学的解析 極細絶縁銅線(記録電極)を脛節屈筋に刺入することで死にまね中、静止中、歩行中における運動ニューロンの活動を非侵襲的に細胞外記録した。その結果、死にまね中にはfast typeおよびintermediate typeの興奮性運動ニューロンの活動は完全に停止するが少なくとも補助屈筋を支配するslow typeの活動は持続していることがわかった。これにより、ウェタの死にまねで報告されているような活動電位なしの筋収縮(キャッチ)とは異なり、少数の小さな運動ニューロンの持続活動が死にまね中の筋収縮の維持に寄与することが明らかとなった。
|