本年度は、ショウジョウバエ成虫の中枢神経系由来の培養細胞BG3C2上に概日振動を再構築することを試みた。リズムの誘発には熱ショックプロモーター下流にdClock遺伝子を連結したhs-clkを用い、37℃30分の熱ショックを与えた。レポーターとしてはper遺伝子プロモーター下流にホタルルシフェラーゼを連結したper-lucを用い、浜松ホトニクスの微弱発光測定装置を用いて10日間にわたり自動計測を行った。hs-clkとper-lucのみで培養細胞を形質転換して熱ショックを与えても、一過的な発光レベルの上昇下降のみが見られるだけであった。ウェスタンブロットを行うと、時計タンパクであるTIMは発現していたがPERは発現していなかった。そこでper遺伝子周辺の約13kbを含むゲノム断片を共に形質転換した。熱ショックを与えても数日間は概日振動が見られない事が多かったが、1週間以上経過してから明瞭な発光リズムが観察され始める傾向があった。形質転換後10日以上経過したものに熱ショックを与えると、明瞭な周期性を示す場合が多かった。また、計測細胞数を少なくすると、かえって発光リズムが明瞭になる傾向があった。発光のピーク間隔(周期)は、実験ごとに24〜72時間と大きなばらつきを示し、細胞密度が高いほど周期が短くなる傾向が見られた。これらの結果は、個々の細胞では熱ショックによって独自の周期で概日リズムが誘導されているが、全体的な発光リズムの性質はそれらの細胞間相互作用で決定されていると考えると納得しやすい。この仮説を確かめるためには、今後、個々の細胞の発光を個別に計測する工夫が必要である。
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