昆虫の体色発現調節機構の分子レベルでの解明を目的として、プテリジン系色素形成の鍵酵素であるGTP-シクロヒドロラーゼI(GTP-CH I)遺伝子に着目し、その遺伝子の発現解析を試みている。今年度までにカイコのGTP-CHI遺伝子断片(275bp)の配列を決定し、これをプローブに用いて、4齢幼虫から羽化直後の成虫まで、1日おきに15段階の各ステージの皮膚を採取し、ノーザンブロット解析を行った。その結果、GTP-CHI遺伝子の発現時期は体液中のエクジステロイド濃度の高い時期と一致していることが明らかになり、GTP-CHI遺伝子は昆虫の脱皮と変態と密接な関わりを持って発現している可能性が示唆された。さらに、カイコの品種によって、GTP-CHI遺伝子の発現量及び発現時期に大きな相違が認められることが明らかになった。又、カイコ初期5齢幼虫のエクジステロイド濃度は非常に低いことが知られているので、この時期のカイコへの20-ヒドロキシエクジソンの投与が皮膚中のGTP-CHImRNAの発現量にどのような影響をもたらすのか、ノーザンブロッティング及びRT-PCR法を用いて定量するため、エクジステロイドの投与時期、時間とともに発現量が微量な遺伝子を検出する方法を検討している。来年度のサンプル調製時には、カイコの品種によるGTP-CHI遺伝子の発現にも相違が認められたので、2種類のカイコを並行して飼育し、エクジステロイドの投与、幼若ホルモンの投与及び2種類の同時投与を行い、GTP-CHImRNAの発現量への影響を調べることで、変態に伴う生物現象発現調節に関する分子生物学的な理解を深めていきたい。
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