還元型のプテリジンであるテトラヒドロバイオプテリン(BH_4)は生物に必須の補酵素活性を持つ物質として知られている。一方、昆虫のプテリジンはメラニンやオモクロームとともに体色発現に直接的に関っている。本研究は、このプテリジン生合成の第一段階の反応を触媒し、律速酵素として働いている、GTP-シクロヒドロラーゼI(GTP-CH I)に着目し、GTP-CH Iを通して、昆虫におけるBH_4の生理機能をプテリジン蓄積以外の角度から探ることを目的としている。 今年度までに、プテリジン蓄積量には差が認められないが、オモクローム系色素発現及び斑紋の相違により体色が異なるカイコ(支146、カスリ、大造)を使い、発生段階における皮膚中のGTP-CH Iの活性及びmRNAの発現量を比較した。その結果、オモクローム系色素を多量に蓄積し、メラニン色素からなる斑紋が一番大きなカスリでは、他の2種と比較すると全ての発生段階を通して、GTP-CH Iの活性が高いことが明らかになった。さらに、エクダイソン濃度の変動と連動して、カスリが脱皮、蛹化、羽化する時期にGTP-CH I mRNAの強発現が認められた。又、BH_4の生合成の最終段階に働く酵素である、セピアプテリンレダクターゼ(SPR)の活性も、全ての発生段階を通してカスリの方が若干高いこと、GTP-CH I mRNAの強発現が認められた時期近くで、BH_4を含む還元型バイオプテリン量が増加していることが明らかになった。以上のように、カスリにおける、GTP-CH I mRNAの強発現はプテリジン蓄積を目的としたものではなく、オモクローム合成やメラニン形成に関与する、昆虫に特異的なBH_4の補酵素としての役割を示唆するものである。
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