他生物との共進化を強く類推させながら、形質の進化・多様化の理由がはっきりしていない葉上器官、「ダニ室」について、クスノキ科の植物を材料に研究を行ってきた。 まず、クスノキについては、木の成長とダニ室やダニの分布などに関する調査を行った。南九州にて様々な樹高の木、約30本から約200枚の葉を採集し、約1000個のダニ室を観察した。その結果、ダニ室の数は樹高とあまり相関がみられず、同じ木の中でも数にばらつきがあることがわかった。また、ダニ室の数は葉の面積ともあまり相関が見られないが、逆に、どんな大きさの葉でも成熟したものならほぼ全ての葉がダニ室を持つことがわかった。その他、ダニ室にもっとも多くすむのはフシダニ類であることを確認した。 一方、クスノキの葉を発達段階ごとに解剖し、ダニ室の発生を観察した。その結果、ダニ室は葉のかなり初期の発達段階から形成されることを確認した。また、他の部分の葉肉細胞が柵状組織や海綿状組織に異化していくのに対し、ダニ室部分の表皮細胞下では葉肉細胞の異化が遅れ、そのまま密な細胞層を維持することを確認した。 オコテア属については、アメリカの標本室の標本を用い、属内でどのようにダニ室の多様化が進んでいるのかを調査した。その結果、とくにマダガスカル島に分布するオコテア属で、角のように突出したダニ室を作る種からまったくダニ室を持たない種まで、ダニ室が非常に多様化していることがわかった。現在、これらの種の分布状況とダニ室の形態の相関を調べており、標高の高い地域の種にダニ室が発達したものが多い可能性があるところまでわかってきている。 これらの結果から、今後はオコテア属のマダガスカルの種を中心に、各種の生態や系統などとダニ室の形態、ダニ室内の生物などの相関を調べることが重要と思われる。また、クスノキに関しても発生のより詳細な観察を行っていく。
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