本研究では、シオガマギク属ハンカイシオガマ節植物の集団間レベルの分子系統地理学的解析を行い、日本の固有種であるハンカイシオガマやオニシオガマ、イワテシオガマ、ヤクシマシオガマの種分化過程を明らかにすることを目的とした。(1)サンプリング:今年度はハンカイシオガマ4集団、オニシオガマ5集団、イワテシオガマ2集団、ヤクシマシオガマ1集団合計251個体を採集し、葉片をシリカゲル乾燥した状態で保存してある。(2)葉緑体DNAの解析:予備的な解析として各種各集団から1個体ずつをDNA抽出し、葉緑体DNAのtrnL(UAA)5'exon〜trnF(GAA)の遺伝子間領域約950bpの塩基配列を決定した。塩基置換や挿入/欠失をもとにアライメントを行った結果、各種において固有な形質が検出され、種を区別することができた。さらにオニシオガマ4集団の解析では集団間変異も検出され、東北地方の集団と本州中部の集団の間において遺伝的な地理的分化が生じているように思われた。ハンカイシオガマとイワテシオガマでは集団間の差異は認められなかった。(3)系統解析;すべての種をふくむ12個体間の系統解析をおこなった結果、ハンカイシオガマとイワテシオガマ、ヤクシマシオガマを含む系統とオニシオガマの4個体を含む系統の2系統に分岐した。ハンカイシオガマとイワテシオガマ、ヤクシマシオガマは、71%のブートストラップ確率で単系統となったが、3種間の関係は不明瞭であった。オニシオガマ4個体は96%の確率で単系統となり、谷川岳と苗場山の本州中部集団が92%でまとまった。オニシオガマとそれ以外の種が姉妹群を形成した結果は、日本のハンカイシオガマ節の中でオニシオガマが最も原始的とする山崎(1983)の仮説を支持するものである。来年度は大陸に生育するハタザオシオガマを含めた系統解析、集団内多型の検出の解析を行う予定である。
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