研究概要 |
本研究では、シオガマギク属ハンカイシオガマ節植物の集団間レベルの分子系統地理学的解析を行い、日本の固有種であるハンカイシオガマやオニシオガマ、イワテシオガマ、ヤクシマシオガマの種分化過程を明らかにすることを目的とした。(1)サンプリング:前年度分を含めてハンカイシオガマ5集団、オニシオガマ7集団、イワテシオガマ2集団、ヤクシマシオガマ1集団から葉片を採集し、計76個体を解析に用いた。(2)葉緑体DNAの解析:各種各集団から1個体を代表として葉緑体DNAのtrnL(UAA)-trnF(GAA),atpB-rbcL,accD-psaIの3遺伝子間領域の塩基配列を決定した(約3500bp)。塩基置換や挿入/欠失をもとにアライメントを行った結果、各種において固有な形質が検出され、種を区別することができた。またオニシオガマでは集団間変異が多く検出され、地域的な分化が生じていた。一方、ハンカイシオガマとイワテシオガマでは集団間の差異はほとんどなかった。(3)系統解析;すべての種をふくむ13個体間の系統解析をおこなった結果、ハンカイシオガマとイワテシオガマ、ヤクシマシオガマを含む系統Aとオニシオガマを含む系統Bの2系統に分岐した。系統A内では最も祖先的な位置にヤクシマシオガマが付いた(65%)。系統Bのオニシオガマ6個体は100%の確率で単系統となり、その中において谷川岳と苗場山、守門岳の越後地方の個体が100%でまとまった。以上をまとめると、日本列島におけるハンカイシオガマ群には、主に日本海側に分布するオニシオガマの系統と太平洋側寄りに分布するイワテシオガマ、ハンカイシオガマ、ヤクシマシオガマの系統があることが明らかとなった。この結果は、ハンカイシオガマ群の共通祖先が日本列島に侵入した後、日本海側と太平洋側に分かれ、その後各地で種分化したことを示唆している。
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