ヒト椎骨においてneurocentral jointの癒合はどのような様態を示すのか。それを確認すべく、小児期骨標本を調査した。 本年度は千葉県茂原市下太田貝塚遺跡出土の人骨の鑑定を行い、未成年人骨の椎骨の形成に関するデータを得た。当該遺跡出土人骨は縄文中期から後期に属する集団であり、個体数は200体以上にのぼる。そのうち調査対象となる未成年人骨の割合は多いとはいえないが、10体存在した。保存状態の不良な標本が多いために接合および鑑定は困難を極めた。個体同定に先立ち人骨標本の修復接合を行い、小児骨を抽出する。そののちに詳細な年齢の推定を行うわけだが、これには歯の萌出状態を判断材料として用いた。2歳から13歳までの10個体を調査した結果、予備調査の結果と矛盾しない結果を得た。すなわち、neurocentral jointの癒合は頚椎および腰椎で3歳頃始まり、胸椎ではやや遅れて癒合することが解った。一番最後まで癒合しないまま残るのは中位胸椎Th7〜Th9のあたりで、全ての椎骨で癒合が認められるのは8歳頃であった。幾つかの例では、頚椎よりも腰椎において先に癒合が始まる傾向が認められた。 これまでの調査と今回の調査によって明らかになった知見を以下にまとめる。 (1)これまでの知見ではその癒合順序は頚部から腰部へ向けて下行して進むとされていたが、それとは異なり、その癒合順序は頚部および腰部から中位に向かうことが解った。 (2)その癒合時期に関して、従来の見解よりもやや遅く終了するという結果が得られた。 (3)頚部と腰部とでは、腰部で癒合が先行する傾向が認められた。ただしこの件に関しては例数が少ないので今後も調査を継続して行く必要がある。 その癒合開始時期について、Grayによれば頚椎において癒合が始まるのは3歳頃とされている。Frazerによれば生後1年後のさらに数年後と表現されている。この点については、両文献とも大きな相違はなく、本研究の結果とも矛盾しない。また癒合完了時期については、Grayによれば6歳頃とされている。Frazerには完了時期についての記述はない。今後さらに調査数を増やし、さらなるデータの充実を図る。
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