前年度に引き続き、電界効果トランジスター(FET)型基板を用いたLB膜の外部電場による電子物性制御の研究を行った。それまでに我々はEDT-TTFと脂肪酸から成るLB膜の電界効果特性を見いだしていた。しかし、絶縁層として用いている酸化アルミニウム層の良質な薄膜形成が非常に困難である点と、素子に流れるキャリアの移動度が非常に低い点が問題となり、本年の研究ではこれら問題点の解決に主眼を置いた。試行錯誤の末、絶縁層として酸化シリコンを使用し、LB膜の構成分子としてアクセプター系のTCNQ誘導体を用いることで、安定なゲート絶縁性とキャリア移動度の大幅な増大が見られることが分かった。また真空下で計測できるよう測定系を再構築したところ、素子特性の再現性が非常に良く取れることが明らかにされた。以下に、作成されたFET素子の特性および評価結果を示す。 長鎖アルキル基を有するTCNQ誘導体LB膜ではnチャンネル型のFET出力特性が得られることが、今回初めて明らかにされた。しかし、そのキャリア移動度は長鎖アルキル基の長さによって大きな差があることも分かった。すなわち、偶数個の炭素原子からなるアルキル基を有するLB膜では、移動度が約1x10^<-5>cm^2V^<-1>s^<-1>とLB膜としては比較的大きな値を示すが、奇数個のそれでは移動度が上記値の約1/5以下に低下してしまう。移動度低下の原因をさぐるため、これら試料に関してX線回折法による膜構造の解析を試みた。その結果、奇数個炭素から成るアルキル基を持つ分子のLB膜では、アルキル鎖部分の偶奇効果によるパッキング構造の乱れを引き起こしており、この乱雑な構造がキャリア移動度を大きく減少させていることが明らかになった。以上の結果は、より整った膜構造を実現すれば、さらに高いFET特性が得られるであろうことを示唆している。これらの研究成果はInternational Conference on Science and Technology of Synthetic Metals 2002および第50回応用物理学関係連合講習会において公表された。
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