ワイドギャップ半導体六方晶シリコンカーバイド(SiC)は大きな絶縁破壊電界強度を持つため、既存のシリコン(Si)系半導体パワーデバイスでは理論的に実現不可能な超低損失デバイスを実現可能と期待されている。しかし、シリコン酸化膜(SiO_2)/SiC界面におけるチャネル電子移動度がバルクSiCの電子移動度に比べ極めて小さいため、チャネル抵抗がデバイスの抵抗の大半を占め、デバイスの高性能化を阻んでいる。本研究では、SiO_2に代わる新たな絶縁膜としてSiCと同じ六方晶で、しかも、格子定数がほぼ等しい窒化アルミニウム(AlN)を提案している。窒化アルミニウムとSiCの界面を制御することで、デバイスに利用可能なAlN/SiCヘテロ構造を実現することを目指して研究を進めてきた。今年度得られた結果は以下の通りである。 1.SiC表面を、構造的観点および化学的観点で制御を行うことで、高品質AlN結晶成長を実現した。すなわちステップ高さの制御と、表面に存在する酸素の完全な除去および表面超構造の発現を行ったSiC上にAlNを成長することで、2次元レイヤーバイレイヤー成長を実現すると共に、結晶性の大幅な改善を実現した。この高品質AIN層の応用としてGaN成長層の為のバッファー層として使用したところ、GaN層の結晶性も大きく向上することを明らかにした。GaN系パワーデバイスへの応用が期待される。 2.従来用いられてきたSiC(0001)面に加え、無極性面であるSiC(11-20)面上へのAlNの結晶成長を試みた。SiCの結晶方位情報をAlNは引き継いで成長する、すなわち、エピタキシャル成長を実現した。しかし、SiCのポリタイプはAlNに引き継がれず、SiCが6Hポリタイプであるのに対して、AlNは2Hポリタイプ(ウルツ鉱構造)であることが判明した。この現象は結成成長学的に新しい知見であると当時に、GaN系光デバイスで必要とされる、無極性面の実現の1方法を新たに提案するものとして意義がある。
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