研究概要 |
本研究は、分子エレクトロニクスデバイスの開発を念頭において、有機分子のナノスケール領域での構造・配向制御と機能発現、高効率化を目的としている。本年度は、配列成長した共役系オリゴマー分子の電気特性、特に電極金属の依存性とナノスケールチャネルを有するナノギャップ電極を用いた有機電界効果トランジスター(OFET)による電子物性評価を行い、有機分子/金属界面でのキャリア注入の高効率化について検討した。有機分子試料としてフェニル終端チオフェン3量体(P3T)を用い、成膜条件の最適化により配列層状成長した高配向性膜作製を行った。熱酸化膜(100nm)が形成されたヘビードープSi(100)をゲート電極とし、熱酸化膜上にリフトオフ作製したAu/Cr、Au/Tiくし型電極、またはEBリソ作製したギャップ幅30nm〜1mmのPt製くし形電極、先鋭電極をソース、ドレイン電極とした。まず、電極材料によるキャリア注入効率の変化について実験を行った。その結果、Au/Ti電極では、Au/Crに比較してドレイン電流値が1桁小さく、その飽和特性が非線形的に増加するなどの差異が見られた。またホール移動度は、Au/Cr電極の場合に1.73×10-3cm^2/Vs、Au/Ti電極の場合に4.23×10-4cm^2/Vsであった。ゲート電圧の印可によりキャリア蓄積層が擬2次元的になると仮定すると下地金属の影響が無視できず、その仕事関数(Cr:4.50eV, Ti:4.33eV)によりキャリア注入効率が変化するため、p型半導体であるP3Tでは仕事関数の大きいほど有機半導体/金属界面での障壁が下がり、キャリア注入効率が上がるためだと考えられる。次に、電極形状によるFET特性の変化を観測した。くし型電極の場合、チャネル長1ミクロン以下では短チャネル効果によりId/Vd飽和特性やVg変調が観測されないものの、先鋭電極ではチャネル長70nm以下でもVg変調、飽和特性を示し、素子の微細化において先鋭電極が有利であることが示唆された。また、Id-Vd特性の特に線形領域における「立ち上がり特性」が先鋭電極にて大幅に改善されていることがわかった。その特性改善の原因としては、先鋭電極では先端曲率が小さいために電界集中が生じやすく、同じ電圧を印可したくし形電極と比較して実効的な電界が強くなり、電極からのキャリア注入効率が向上したためだと思われる。
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