光の波長程度の大きさをもつマイクロキャビティを利用した輻射場制御の研究は数多く行われてきた。波長よりさらに小さなナノキャビティについては、キャビティ中に光波(3次元光波)のモードが存在しないことから輻射場制御の研究は行われていなかった。我々は回折限界をこえたナノメートルの光ビームを形成できる低次元光波について研究を行ってきたが、負誘電体ナノキャビティを利用すると低次元光波を選択的に励起できることに気が付いた。そこで本研究では負誘電体ナノキャビティによって低次元光波のモードを制御するための基礎実験を行った。 有機蛍光体を含む負誘電体ナノキャビティを作製し、その発光特性の計測を行った。有機蛍光体としては有機EL用媒質として知られているAlq3とαNPDを使用した。ITOガラス基板上に金、有機蛍光体、銀とマグネシウム合金を蒸着して負誘電体キャビティを形成した。通常の有機EL素子と異なり、透明電極ではなく通常の金属を電極として用いるために発光層の垂直方向には発光(面発光)がおこらず、横方向への発光(端面発光)がおこる。さらに蛍光層の膜厚を100nm程度に薄くして、負誘電体(金属)にサンドイッチされたナノキャビティからの発光を実験的に調べた。このような負誘電体ナノキャビティにおいては2次元光波の伝搬モードしか存在できないことが理論からわかっている。実験の結果、以下のことがわかった。 1)有機蛍光媒質の膜厚を100nm程度に薄くした状態で、金属に電圧を印加して電流励起により端面発光させ、遠視野での発光スペクトルと偏光について調べた。発光スペクトルは膜厚に強く依存したピーク構造をもち、面発光と異なる特性が得られた。偏光はTM偏光(電場の振動方向が界面と垂直)を示した。 2)負誘電体ナノキャビティのモード計算を行ったところ、3次元光波はカットオフとなって存在できず、2次元光波のみが存在できることがわかった。2次元光波はTMモードであることから、1)において観測した偏光は、2次元光波がナノキャビティ中において励起、伝搬され、端面において3次元光波に変換されて遠視野において観測されたものと解釈できる。 3)1)と2)の結果から、ナノキャビティを利用して励起が困難な2次元光波を電流励起できることがわかった。これはナノ光回路の光源、いわば2次元光波源への道を開くものと考えられる。
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