研究概要 |
本研究では,Cr(110)表面に膜厚を制御したCr203(0001)単結晶薄膜を作製し,その構造と物性を明らかにするとともに,薄膜中の水素の拡散係数を求め,Cr203(0001)表面と膜中での水素の動態を解明することを目的としている. 本年度は, 1.低温試料ホルダーの作製, 2.赤外吸収分光システムの構築, 3.Cr203(0001)単結晶薄膜の作製とフォノン測定, の3項目について研究を行った.1では,液体Heを用いて4Kまで冷却可能な試料ホルダーを新たに作製した.2では,超高真空中の試料に対して,500cm-1まで測定可能な赤外検出器と分光計の設計・製作をおこなった.3では,Cr(110)表面を直接酸化することでCr203(0001)単結晶薄膜の作製を行った.酸化時間を変化させることで膜厚を変化させた.オージェ電子分光の測定を行い,20Lでおよそ1nmの単結晶薄膜が形成されることを明らかにした.2で構築した赤外吸収分光系を用いて膜厚の異なる試料について測定を行い,720cm-1付近に光学縦モードに起因する吸収ピークを新たに見出した.この値はバルクフォノンの振動数に比べて6cm-1程度ソフト化している.吸収ピークの温度依存性を調べたところ,150K以上で振動数が低波数側にシフトし,それと同時にスペクトル幅が増大することがわかった.この原因として,低波数振動モードとの非調和結合と磁気的相転移について考察した.
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