研究概要 |
量子力学的確率論に基づいた量子情報理論の体系的構築を目的として,量子系における仮説検定と通信路符号化に焦点をしぼり,以下の研究を行った. 1.量子仮説検定における誤り確率指数部の評価 量子力学系における仮説検定問題において,第一種誤り確率と第二種誤り確率を共に指数的に減少させる場合について考察し,誤り確率指数部の理論的性能評価を行った.古典的な仮説検定問題においては,第一種誤り確率と第二種誤り確率の最適なトレードオフを与える指数を導く公式として,「Hoeffdingの定理」が知られている.本研究においては,作用素不等式を用いて第一種誤り確率と第二種誤り確率の上界を導き,誤り確率指数部の評価を行った.この指数は,二つの仮説が可換な場合(=古典的)には「Hoeffdingの定理」と一致する.またこの上界を用いることで,「量子Steinの補題」順定理の別証明を与えた. 2.量子通信路符号化定理の証明の簡単化 量子通信路符号化定理の証明において,符号の構成,誤り確率の評価を,量子仮説検定問題に帰着させる手法が知られている(著者博士論文).本研究においては,量子系における「情報スペクトル的方法」の構築を目指して,上記手法の簡単化を行った.まず符号の構成部分においては,測定による量子状態の破壊の度合を評価するWinterの不等式を用いることで,見通しの良い符号構成を行った.その後に,1で導出した量子仮説検定における誤り確率の上界を用いて,量子通信路符号化における誤り確率の漸近挙動を評価し,直接的な量子通信路符号化定理の証明を与えた.ところで,Winterの不等式は物理的にも重要な不等式である.その証明は数ページにおよぶものであったが、本研究において別証明が与えられ大幅に簡略化された.
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