研究概要 |
薄膜の機能・強度には,基板と薄膜との熱膨張係数差などに起因して発生する残留応力を把握することが重要である.残留応力が薄膜の残留応力測定法としては,X線回折により結晶格子ひずみを測定して応力を求める,X線応力測定法が広く用いられている.しかし,従来のX線応力測定法(sin^2ψ法)では,X線侵入深さ内(多くの場合は薄膜内)の平均的応力を求めることしか出来ない.薄膜の形成メカニズム,残留応力発生メカニズムを検討するためには,薄膜内部の詳細な残留応力状態,特に,基板との界面近傍の応力を把握することが重要である. 本研究では,シンクロトロン放射光の特徴を活用して,複数の波長を用い,また高ψ角(ψ:試料面法線と回折面法線とがなす角)まで測定することで,X線浸入深さの波長依存性とψ依存性の両方を利用して,精度良く残留応力の深さ方向分布を評価する方法(複数波長法Multi Wavelength Method)を提案した.具体的には,複数の波長,すなわち異なる侵入深さのX線を用いて,複数2θ-sin^2ψ関係(2θ:回折角)を測定し,それら全ての2θ-sin^2ψ線図に適合する応力分布を,最適化手法によって求める方法である.提案した複数波長法を,ショットピーニング面に適用した結果,残留応力の深さ方向分布が二次曲線的になっていることが推察された.また,残留応力分布を直線と仮定して求めた残留応力の最表面における値が,危険側となる場合があることが示された. 平成14年度には,本手法の検証実験を行い,また,薄膜に適用し,薄膜の形成メカニズム,残留応力発生メカニズムを検討する予定である.
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