研究概要 |
マイクロトライボロジーの分野において長年未解決問題となっている「摩擦力の定量化」に飛躍的進展をもたらす技術の一つに,メニスカス力を無視することができる原子間力顕微鏡の創出がある.そこで,メニスカス力の影響が限りなくゼロに近い「超撥水膜」をコーティングした新発想の原子間力顕微鏡探針を開発し,これを用いることによって,相対湿度の変化に左右されることなく材料自身に起因した摩擦力発生機構を明らかにし,ナノスケールでの摩擦力の定量化方法を確立する.一方で,この超撥水膜と同種材でありながら濡れ性(接触角)のみ異なる被膜を用いて接触角と摩擦力の関係を調べることにより,摩擦力に占めるメニスカス力の割合を定量的に求めることを目的とした. 平成14年度は,濡れ性(接触角)の異なる2種類の超撥水膜被膜を用いて接触角と摩擦力の関係について押し付け荷重を変化させて調べることにより,摩擦力の荷重依存性について表面形状の変化から考察した.また,マクロな摩擦理論において無視されてきた摩擦表面の微細形状が摩擦力に及ぼす影響について定量的に求めた. 1.超撥水膜では,荷重による表面変形を伴わない条件では,摩擦力は「メニスカス力の影響を除いた一定の凝着力と垂直荷重の和」に比例した真実接触面のせん断力であることがわかった. 2.超撥水膜では,メニスカス力の影響が極めて小さく,摩擦力は相対湿度によらず一定であることがわかった. 3.表面形状の接戦方向の傾きを9次の近似式で近似して得られた式を1階微分することで求め,水平力との関係を調べた結果,表面形状の傾きの増加とともに,水平力も増加することがわかった.この際も,超撥水膜を用いることにより,相対湿度の影響を排除できることが分かった.
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