研究概要 |
本研究では,微生物の運動と栄養摂取の関係を明らかにすべく,細菌の運動観察と解析,遊泳する微生物モデルの栄養摂取に関する理論解析と数値計算を行った。 細菌の遊泳運動に関しては,ビブリオ菌を用いて,個々の菌の遊泳速度と菌体回転数の関係を調べ,両者が比例関係にあることを確認した。この比例定数は,菌毎に異なっており,菌の寸法に依存するものと予想された。そこで,境界要素法に基づいた数値解析を行い,実験結果と比較した。その結果,両者は実験データのバラツキの範囲内でよく一致することが示された。これらの結果から,細菌の遊泳運動は,流体力学的な立場からよく説明できること,細菌の運動に伴う流体運動はストークス近似で十分表現できることが示された。また,数値解析を行うことで,実験的に求めることが困難なべん毛モータのトルクの推定や細菌近傍の流れを調べることができ,生物学的知見の蓄積に寄与するものと期待できる。 微生物の栄養摂取に関しては,自己推進する生物体表面における物質伝達率の算出を行った。繊毛運動で泳ぐ微生物の簡単なモデルとして,表面の接線方向運動によって移動する球を考え,固体球が一様流中に置かれた場合との比較を行った。理論解析と数値解析の両面からの検討を行い,ペクレ数が1よりも大きいとき,遊泳の影響により,物質伝達率がかなり増加することが示された。遊泳運動は移動手段としての意味だけでなく,栄養摂取または物質循環にも重要な意味をもつことが示唆される。
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