研究概要 |
本年度は,導電性フィラーを含有する熱可塑性樹脂材料の基本特性を把握するために,シート形状の試料の体積抵抗率に与える周囲温度ならびにフィラー含有率の影響について検討した.実験では導電性フィラーとしてケッチェンブラック(微細な炭素粉で平均粒子径は数十nm),熱可塑性樹脂としてフィラーの分散性を良好にするために改質されたポリカーボネート樹脂を使用した.体積抵抗率の測定には,高抵抗測定手法であるASTMD-257規格を参考にした測定系を構築し,ケッチェンブラック濃度を6, 7, 8%と変化させた厚さ100ミクロンのシート材を使用した.母材となるポリカーボネート樹脂のガラス転移温度はDSC測定より150℃付近にあることが求められたが,実験ではこれ以上にまで材料を加熱するため,市販の測定用電極を用いることができない.そこで本研究ではまず,電気絶縁のための熱硬化性樹脂フレーム内に,ステンレス電極が設置された構造を有する,高温環境まで高抵抗率測定が行える電極の作成を行った.この自作電極に対し,市販電極を用いて室温で検定を行った結果,高抵抗率測定における測定誤差として十分に許容できる信頼性を確認した.また,電極表面と試料間の接触抵抗を低減するために,電極自体はスプリングによる圧着機構を有し,測定に際しては一旦試料を150℃以上にまで加熱した後,試験温度とするなどの注意をはらった.測定ではケッチェンブラック濃度及び周囲温度による体積抵抗率の変化を系統的に測定した.室温状態におけるケッチェンブラック濃度6%の試料の体積抵抗率は約300GΩcmであったが,ケッチェンブラック濃度が6%から8%に増加にすることで,約25%低下する結果が示された.また,ガラス転移温度以下では,周囲温度が30℃から90℃に上昇することで,約10%の手体積抵抗率の低下が測定された.一方,ガラス転移温度による体積抵抗率の変化は非常に大きく,ケッチェンブラック含有率8%の試料において,室温で約250GΩcmあった抵抗率が170℃において0.6GΩcmとなる結果が得られた.このような結果が得られた原因としては,温度上昇による熱電子の増加だけでなく,フィラー間に存在する樹脂の分子鎖の運動自由度が高くなることで,例えば電界方向への分子鎖の配向といったような,電荷移動に対して有利となる状態が実現されたためと推察される.
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