放電による大気汚染ガス処理反応器に似せた多針-平板電極型リアクタを作製し、このリアクタ内でOHラジカルをレーザ誘起蛍光法(LIF)により観測した。極短パルスコロナ放電をリアクタ内で発生させ、水分子から生成されるOHラジカル密度の時間変化を観測した。その結果、OHラジカルは放電後数μs間増えつづけ、その後10μs程度一定濃度を保ったあと減衰していくことが分かった。 OHラジカルはNOxや揮発性有機物(VOC)などの分解で強い影響力をもち、分解を激しく促進あるいは抑制すると考えられている。我々はVOCのひとつであるトリクレンとOHの相互作用に注目し、トリクレンを雰囲気ガスに加えたときのOHの挙動の変化を観測した。その結果、わずか数100ppmのトリクレンが存在するだけでOHの生成が80%以上減少することが分かった。この他の比較実験から、塩素原子を含む有機物が存在するとOHの生成が抑制されることが確認された。この結果から、OHのトリクレン分解過程での働きを分析中である。 OH-LIFで使用しているKrFエキシマレーザを用いて、吸収法によりオゾン濃度の時間変化も併せて測定できることを示した。放電環境下ではオゾン濃度の時間変化から酸素ラジカルO(3P)の挙動も推測できることが知られており、同一測定系でOHとオゾンの観測、および酸素ラジカルの挙動分析ができることを示した。これら3つのラジカルはどれも非常に活性で、放電プラズマの反応分析には欠かせない。これらのラジカルの観測が進めば、現在汚染ガス処理の分野で遅れているラジカルの直接観測による反応分析に大きな展望を開けると期待できる。
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