研究概要 |
高分子フィルム表面の不純物準位を定量的に評価するため,パルス静電応力法を用いた界面電荷密度測定をおこなった。本年度においては,電極/高分子フィルム界面での電荷挙動について観測すると共に,比較の意味で,液体/高分子フィルム界面での電荷挙動についても観測した。研究概要を以下にまとめる。 (1) 最初に,界面の電荷密度が変化する様子を観測するための実験装置を製作した。この装置を用いて,絶縁油/ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム複合体に直流高電圧を印加した時の,界面蓄積電荷密度の過渡的変化の観測を予備実験的におこなった。絶縁油と高分子フィルムの音響インピーダンスの違いに起因する圧力波信号の歪みを補正すれば,界面電荷密度の測定が可能であることがわかった。 (2) 半透明金電極と,フィルム表面との間に,薄い空気層を介した状態で,フィルム表面の残留電荷密度が紫外線照射により減衰する様子を観測した。音響的バリアとして作用する空気層の存在により,通常のPEA法では,検出できないフィルム表面の残留電荷と,電極表面の影像電荷をそれぞれ分離して検出できた。新品のPETフィルムを用いた場合と,あらかじめ紫外線劣化されたPETフィルムを用いた場合との間で,実験結果を比較した。その結果,直流電圧を印加後短絡した時点での残留電荷密度は両者の間でほとんど同じであったのに,短絡状態のもとで紫外線照射を開始してからの残留電荷密度の減衰特性に以下のような差が認められた。すなわち,減衰速度を指数関数で近似したときの減衰の時定数を比較すると,新品フィルムのそれが劣化フィルムのそれの2倍以上大きかった。さらに,減衰が収束した時点での新品フィルムの残留電荷密度は,劣化フィルムのそれの1/2以下であった。これらの実験事実は,劣化フィルムの表面準位が新品フィルムよりも深い所に存在するため,劣化フィルムの表面にてトラップされた残留電荷は,紫外線照射により脱トラップされる確率が低いために時定数がちいさくなり,さらに254nmの光のエネルギー(4.9eV)よりも深い準位に捕らえられた電荷が数多く存在したため,減衰の収束値が上昇したことを示した。
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