本研究では、ナノメートルスケールの有機トランジスタに関する基礎的な知見を得るため、導電性AFM探針を用いて有機薄膜の局所電気物性の評価や試作トランジスタの動作特性等を調べることを目的としている。 まず、より高空間分解能・高感度で電流分布を得られるよう、探針の改良を行なった。その結果、シリコン探針に白金を成膜し熱処理を施すことで、機械的強度の高さと導電性の良さを兼ね備えた白金シリサイドコート探針を形成する条件を見いだした。この探針を、電流測定よりさらに低接触抵抗であることが要求される電位測定に用い、有効性が確認された。 また、高空間分解能化に伴う測定電流の減少とS/N比の劣化を補うために、AFM装置に高感度電流測定系を付与し、AFM電流像測定および局所I-V測定を高精度に行えるよう改造を行った。これを用いて、基板にあらかじめ形成しておいた対向電極との間で2端子での電流分布測定を行い、有機半導体材料である銅フタロシアニン超薄膜の導電率に対する基板の影響について評価を行った。マイカ上およびシリコン酸化膜上に成長させた針状結晶について結晶の厚みと導電率の関係を調べた結果、厚みが薄くなるほど導電率が高く、また、シリコン酸化膜上のほうがその傾向がより顕著であることが見いだされた。この結果は、有機分子と絶縁性基板表面との間で電荷移動によるキャリアドーピングが起こっていることを示唆するものであり、有機半導体ナノ構造の電子応用に関する重要な知見である。 さらに研究を進めるため、探針を特定の位置に固定してトランジスタ特性を測定できる3端子測定系の最適化を進めている。この実験については、現在予備的な段階ではあるが、シリコン酸化膜上の銅フタロシアニン結晶粒に対してAFM探針を一つの電極とした電界効果トランジスタ測定が行えることを確認した。
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