本研究ではイオン性不純物を微量添加した有機半導体薄膜を作成し、これに前処理として加熱処理及び電界処理を行うことでイオン分極を形成させることにより、有機半導体膜の光電変換特性の向上を目指すと共に、薄膜中での分極イオンの安定性や移動機構について検討を行った。 まず、半導電性高分子であるポリビニルカルバゾール薄膜と電子輸送材料(オキサジアゾール錯体:BuPBD)や発光材料(クマリン6:C6)の混合材料に安定なイオン性不純物である過塩素酸テトラエチルアンモニウムを微量ドープした材料を用いて有機電界発光(EL)素子を作成した。これを真空中で80℃で加熱しながら1.5MV/cm程度の電界でイオン分極して室温に戻すと、駆動電圧の低下だけでなく電流-輝度変換効率が1桁近く向上した。これは、電極界面の電界変歪により電極から電子及び正孔のキャリア注入効率が大幅に増加したことによるものと解釈された。なお、イオン分極の効果は室温では数日間にわたり安定に維持されるが100℃程度で数分間熱処理を行うと消失(脱分極)する。なお、1度脱分極した試料でも再度分極処理を行うことで再び特性向上可能である。 次に、正孔輸送材料と光電変換特性に優れた有機半導体として知られるポルフィリンの混合膜を透明電極と金属膜とで挟んだ単層構造の光電変換素子及び、酸化チタンと積層した色素増感型光電変換素子を作成し、その光電変換特性を調査した。その結果、酸化チタンとの積層膜の方が量子収率において1桁程度優れるが起電力に若干劣ることがわかった。また、同素子にイオン性不純物を再び添加して真空中でイオン分極処理したところ、0.1から0.2MV/cm程度の比較的小さな電界により数10%程度の効率向上が得られた。
|