本研究では、信号ケーブル全体に同位相のノイズ電流が重畳した際、ケーブルの周方向を磁界成分とする電磁波を、ケーブル外周に蒸着したフェライト薄膜で磁気損失により吸収するメカニズムを想定した。高い抵抗率を期待できるソフトフェライト膜を用い、フェライト成膜時に通常必要とされる高い基板温度を低温化する方法を試みた。具体的には、成膜方法としてPLD法(Pulsed Laser Deposition法)を用い、室温のガラス基板上にMnZnフェライト膜の作製を試みるとともに、成膜中に適当な条件下でArガスを用い、ターゲットと基板間に遮へい板を設けるEclipse法を利用することによりフェライト膜を作製した。そのように作製した試料の透磁率の周波数特性を評価したところ、1GHzで約10程度(実効成分)の値が得られることが明らかとなった。加えて、薄膜の組成比はターゲットの組成比とほぼ同等であると共に、ターゲットが室温にもかかわらずスピネル構造を一部有する結晶質であることも確認した。 フェライト膜のGHz帯域用材料への応用を鑑みると、困難軸方向へ交流磁界を印加する方法においては、その低い飽和磁化値より共鳴周波数に限界が生じるため使用困難と考えられる。そこで、より一層の高周波化を計る目的として、MnZnフェライト膜に比べより高い抵抗率が期待されるNiZnフェライト膜に材料を切り替え今後検討する予定である。それとともに、実用化に着目し、現状で使用してきたエキシマレーザに比べ、低コスト・低メインテナンス頻度などの利点を有するYAGレーザを用いた「低温プロセスによるナノ結晶フェライト膜」を開発するとともに、本材料を生かした「ノイズフィルタ用フェライト膜」の開発を来年度の目的とする。
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