研究概要 |
本研究では,まずレチナールのL膜(水面上単分子膜)の吸収スペクトルの直接測定を行った。その結果,展開直後には約380nmに吸収スペクトルのピークが現れ,これが膜の圧縮の過程で短波長側にシフトし,π-A曲線上で比較的平坦な部分に達する時点から不規則に変化する様子が観測された。またピーク強度は,π-A曲線上の平坦部付近までは分子占有面積の減少に対してほぼ直線状に増大した。この結果より膜分子は凝集によって分子間双極子相互作用を起こしており,かつ膜圧縮が進むに連れて分子長軸と膜面との角度(配向角)が徐々に大きくなっていると考えられる。 またレチノイン酸とDPPCとの混合LB膜の吸収スペクトル測定も行った。その結果,DPPCの混合による分光特性への明確な影響は見られなかったが,DPPCの存在によって膜が安定化し,良好な積層ができている可能性が認められた。 レチノイン酸単独の高密度のLB膜について吸収スペクトル測定を行ったところ,3つのピークが観測された。この内の380nm付近のピークはモノマー,340nm付近と420nm付近のピークはそれぞれ異なる角度で会合している会合体によるものであると考えられる。なお下層水に塩化カドミウム水溶液を使用した場合,会合体の形成が抑制されることも確認された。 また本研究では,電場印加によるレチノイン酸LB膜の分光特性への影響についても検討を行った。積層用基板にはITO基板を用い,LB膜を複数層累積した上に銀を蒸着し,吸収スペクトル測定を行った結果,±0.4Vの電圧を印加することによりピークがシフトすることが確認された。しかしこの結果は,分子軌道法計算ソフトWinMOPACによって電場印加状態について求めた結果とは異なっており,電場印加に対する摂動効果によるものではないと考えられる。むしろこれは電場から受けた力により,配向角が変化したためであると推定される。
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