本年度の研究実績は下記の通りである。 本年度は、Bi-2212超伝導厚膜におけるMgO粒子の導入量と臨界電流密度(Jc)との関係を広範にわたり調べることを主な目標としているため、具体的に次のような実験・研究を行った。 ●試料作製 Ni基板を用いたBi-2212超伝導厚膜試料の作製を、さまざまな条件の下で行い、超伝導特性の最適化を目標としたプロセスの最適化を試みた。Ni基板を用いた場合におけるNi元素の超伝導層への影響を調べ、NiO層を形成することの有効性を確認した。部分溶融プロセスにおいて、Bi-2212相の生成に直接影響する熱処理温度の最適化を様々な熱処理パターンのテストを通じて行った。 ●MgO粒子の導入 平均粒径が0.2μmのMgO微粒子を常伝導物質として導入し、MgOが磁束ピン止めとして臨界電流密度の向上への効果について調べた。導入量は0vol.%から6vol.%までとした。作製された試料に対して基本的な超伝導特性のチェック(臨界温度や磁化等の測定)と同時に、本学の電子線マイクロアナライザ(EPMA)およびX線回折分析装置(XRD)を利用して組織観察を行ない、MgO粒子の導入による結晶性や超伝導特性への影響を調べた。その結果、Bi-2212の結晶性にMgO粒子の導入による顕著な影響が観測されないこと、4vol.%前後のMgO微粒子の添加が最も大きなJcの向上をもたらしたこと、また、磁束ピン止め理論を用いた理論的な計算値と実験値とはほぼ同程度であることが確認され、MgO粒子の添加によるJcの向上が、磁束ピン止め効果によりもたらされたものであるとの考えを裏付けた。 ●Jcの評価 Jcの評価は主に直接通電法によって行った。高磁界における通電法は東北大学金属材料研究所超伝導高磁場センターの大型マグネットを利用することにより実現した。また、低磁界での広範な温度における測定は本研究室現有の超伝導マグネットを用いて行った。実験で取得した大量のデータに対する解析や考察は現在進行中である。
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