研究概要 |
本研究は、将来的に、シリコンとCuInS_2のヘテロ接合太陽電池やシリコン太陽電池とのタンデム化を検討することを念頭におき、Si基板上CuInS_2薄膜のエピタキシャル成長の検討と結晶学的データの蓄積を目的として計画した。試料の作製方法には、蒸発源に構成元素の単体(Cu, In, S)を用いた「多元同時真空蒸着法」を採用した。 これまでの研究で、次の事柄を確認した。 1 4つの成長速度(0.06,0.17,0.33,0.66μm/h)で、他のパラメータを揃えて(基板温度400℃,化学量論的組成,膜厚0.35-0.40μm)ガラス基板上に成長した試料群の観察から、成長速度を遅くした方がグレインサイズが大きくなり、膜厚方向の結晶粒界が減少することが示された。 2 基板温度400℃でSi基板上に成長した場合、CuInS_2薄膜は基板方位の影響を受けて配向し、ガラス基板上に成長した場合などに見られる多結晶成長は見られない。 3 基板温度400℃で成長した場合、CuInS_2薄膜は立方晶系のスファレライト構造に結晶化する。 4 基板温度500℃付近から、原料のInと基板のSiが反応し、膜質に著しい低下が見られる。また、この反応によりIn(化合物)の再蒸発またはウェハ内への拡散が生じ、組成制御が困難になる。 上の3及び4は、本研究の「多元同時真空蒸着法」では、Si基板上にカルコパイライト構造のCuInS_2薄膜を成長することは困難であることを示唆している。しかしながら、この研究の最終目標は、シリコンベース太陽電池の高効率化にあるので、必ずしもCuInS_2をカルコパイライト構造に結晶化させる必要はない。すなわち、今後の方向性として、結晶性は現状のままで、太陽電池として評価する際に必要となる結晶学的データの蓄積を行っていく方向と、結晶性の向上を狙っていく方向の2通りを考えている。
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