化学反応における興奮状態の波(化学波)の拡散/伝搬現象は、生命に代表される非平衡・開放システムの典型的な振る舞いである。非平衡状態において(液状やガス状の媒体を介した)分子の反応と拡散が混在する系を反応拡散系と呼び、そこでは化学物質と媒体が共に「生きた」状態にある。平成13年度は、固体である半導体を用いて反応拡散系を具現化し、生命現象に基づいた情報処理分野の開拓基盤を整えることを目的とした。 具体的には、固体中を移動できる物質を化学物質と見なして、直接的に反応拡散系を模擬する半導体デバイスを構築した。半導体中を移動できる物質、すなわちそれは電子(正孔)である。半導体の少数キャリア(電子または正孔)は拡散やドリフトによって半導体内を移動でき、その流れをもって、たとえば、ゲル媒質上を拡散する化学物質の流れを表すことにした。実際、少数キャリアの連続の式は、反応拡散方程式と非常によく似たものである。この考えに基づいて、本年度は、(自己触媒的に少数キャリアを増倍させる)pnpnデバイスを用いて少数キャリアを発生させ、それが周囲に拡散してさらなる連鎖反応を引き起こすような半導体反応拡散デバイスを構成し、少数キャリアの密度波(化学波に相当)の拡散/伝搬現象を計算機シミュレーションにより解析した。
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