本年度は以下の実績を得た。 1. FDTD法による電子波回折シミュレーションにより、位相シフタ構造による回折効果の電子エネルギ依存性を調べた。GaInAs/InPデバイス構造においては、約200meVのエネルギ広がりに対してコントラストの取れる回折パターンが現れることを確認した。200meVという大きなエネルギ広がりが許容されることにより位相シフタ構造は、従来提案されている回折構造、例えばバイプリズムでは許容エネルギ広がりが0.3meVであったことと比較すると、大きな電流値を確保できる点、波面広がりの精密な制御が必要ない点より、固体中での波面現象の実験検証に大いに有利であることが解った。 2. 新たに提案された走査探針による電子波回折観測の可能性を数値シミュレーションにより検証した。走査探針から電子は放出され、固体中回折構造を通過し、エネルギフィルタで直進波のみ選り分けられ基板に到達する。この所謂弾道電子放出顕微鏡(BEEM)電流の探針位置依存性が回折パターンとなる。この原理は量子力学の相反性により証明されるが、現実のデバイスは理論原理の理想とは離れており、現実を反映したシミュレーションが必要となる。回折構造としては1.でその優位性が確認された位相シフタ構造を採用し、シフタとフィルタをInP、自由空間をGaInAsとしてシミュレーションを行い、トンネル電流が10nAの時、1pA以上のBEEM電流が流れ、回折パターンのコントラストも取れることが解った。この電流値は、通常行われているBEEMの電流レベルと同じであり、新回折観測実験が可能であるか確認できた。
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