本研究は固体中での電子の波面変換機能を時間領域で解析するシミュレータ開発、開発されたシミュレータを用いた波面変換観測実験の原理実証を目的として行なわれた。 シミュレータの主要部開発は前年度に完成されており、本年度は走査探針を用いた電子の固体中波面現象観測実験の原理実証を行った。本実験においては、走査探針から電子が放出され、固体中回折構造を通過し、エネルギフィルタで直進波のみ選り分けられ基板に到達する。この所謂弾道電子放出顕微鏡(BEEM)電流の探針位置依存性が回折パターンとなる。 昨年度において、二次元空間における時間領域シミュレーションから、回折構造をInP/GaInAs位相シフタとすることで、従来のBEEM技術を用いて観測の可能性があることが指摘された。しかしながらシミュレーション空間は二次元であり、走査探針の取り扱いは線波源とされていた。そこで、実際の探針形状が点状であり、探針を三次元点状波源としてモデル化する方法を考案し、最終的な波面現象観測の原理実証を行なった。 点状波源のモデルとしては、電子の波動関数を探針上で探針先端の物理直径程度の広がりを持つガウス関数として局在させることにより行なった。さらに、ガウス関数を実現するに必要な電子エネルギの広がりと回折パターンのコントラストとの関係を調べた。結果、回折パターンのコントラストは探針先端の物理直径に大きく依存し、直径が1mm程度以上で明瞭な回折パターンが出現することが解かった。
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